モンクは恩人だけれど好きにはなれなかった

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Horace Silver.

 

 

 

 

 

 前回書いたようにセロニアス・モンクは私をジャズに導いてくれたいわば恩人なのですが、彼のピアノ演奏には結局馴染めないというか好きになれないまま今日に至っています。

 

 モンクのピアノは一口で言うと不協和音を強調したあくの強い個性豊かな演奏であって、好きな人には徹底して好まれ、嫌いな人には見向きもされないという極端な評価があるように見受けられます。

 

 私自身はトランペットからピアノに転向して、いくつかのバンドを経て、前に「あんたは指は回るけれど、リズムが全然なっていない」と厳しく指摘されたその太鼓の人から、「モンクが好きなのかい」と聞かれたことがあって、どうしてかと聞くと、不協和音の使い方がモンクとよく似ているという返事が返ってきて、いやそれはたまたまそう聞こえるのかも知れないが、モンクは好きではないと答えたことがあったのですが、早い話、不協和音を使いたいときの手っ取り早い方法として、ある音のその隣の音(半音になる場合はあまりに鋭すぎるので、ちょうど2全音、ドの上ならレの音)を重ねて弾くと、必ず不協和音になるので、そういう感じでアドリブのときには意識して弾くことがあったので、その響きがモンク風に聞こえたのだと思われるのです。

 

 ピアノに転向してクラシックの先生に付いて勉強していくということは、必然的にクラシック音楽にも親しむことにもなるのですが、そういう感じで2年か少し教えてもらった筈なんですが、やはりこの期間の勉強の影響はそれなりに大きかったようです。

 

 

 モンクのピアノのテクニックそのものは誰が聞いてもピアノを専攻している子供にも及ばない、と思えるような程度なのですが、しかし世の中にモーツアルトショパンを弾けるピアニストは掃いて捨てるほどいても、モンクのような音楽を作れる人はモンクの他には一人もいないことは明白なので、モンクのピアノのテクニック云々は全然問題にならない訳です。

 

 何より素晴らしい作曲の才能があります。

 

 私がマイルスの演奏で体のすみずみにまで電流が走った衝撃的な「ラウンドミッドナイト」も彼の作曲で、不滅のスタンダードナンバーとなっていますし、バンドの中でもよく演奏した「ストレートノーチェイサー」とか、たくさんの名曲の数々が彼の手から生まれています。

 

 そういう才能に恵まれた一流のジャズミュージシャンであることは誰もが認めるところなのでしょうが、人の好み、好き好き、嫌いというこの感性、感情はどう仕様もないもので、必ず何かに傾くもののようなのですね。

 

 評論家の批評なんかではモンクのソロ演奏を絶賛している人が多く、私もレコード買ってみようかなと気持ちが傾いたこともあったのですが、やはりあのごつごつしたタッチにはどうしても馴染めないまま、モンクのレコード、CDは一枚も持っていません。

 

 

 必ず比重が傾くと言ったのは私自身からの体験からきた言葉ですので、そうではないと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、それにしても耳に入ってくるその音楽をいつもいつも好きになる、ということはあり得ないことだと思うんですよね。

 

 ジャズ喫茶で聞く音楽、演奏家全員を素晴らしいと感じて満足して帰る、というそういう日もたまにはあるかも知れませんが、しかしそれが必ずいつも続くということは多分あり得なく、嫌いなミュージシャンがいて当たり前だと思いますから、ジャズの世界の中でこの人にはどうしても馴染めない、好きになれない、嫌いだという感性、感情が必ず生まれてきて、そして嫌いな人の音楽を誰かが誉めているから、じゃあ聞いてみようという姿勢から、もしかしたら素晴らしい体験をする機会が訪れることがあるのかも知れませんが、それよりは好きな人の音楽に時間を割いたほうがいいと思う方も又自然な流れのように見えるのです。

 

 

 

 ジャズピアノでは私はビル・エバンスが大好きなのです。

 

 エバンスのピアノとモンクのピアノでは、これが同じピアノなのかと思うほどの断絶を感じるのですが、それはモンクの否定ではなく、ただ単に私自身の感性がしからしめるところの、いわばある種の傾きでしかなく、私の好き嫌いに関係なくモンクの音楽はそのままで誰にも真似のできない独自の色彩を放っているのですから、それはそれでよいわけです。

 

 

 エバンスの音楽についてはたくさんの人が取り上げ、その音楽の具体的な仕組みにまで解説しているような動画もあって、ただ単なる印象批評に終わっていないそういう時代に今はなっていますが、それはそれとして、私もエバンスの音楽については語りたいところがありますので、そのうちにこのブログに書かせてもらいたいと願っています。