楽器が人を選ぶのか

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Aga Derlak.

 

 

 

 

 

 クラシックのオーケストラでは実に様々な楽器が使われていて、それらの共同作業で一曲が演奏されるので、よく人が楽器を選ぶのか、楽器が人を選ぶのかが興味深く、ある意味真剣に取り上げられていて、そういう本も出ていることは知ってはいるのですが、ジャズやポピュラー音楽ではそれほど楽器の種類はないので、あまりそういう議論は聞いたことがないように思います。

 

 私が経験したバンドの中では、ピアノ、ベース、ドラムス、トランペット、トロンボーン、テナーとアルトのサックス、そしてギターと唯一のビブラホーンの計9種類、ビブラホーンを除けば8種類しか無いので、人が楽器を選んだのか、楽器が人を選んだのかの議論がほとんど成り立たないような、極めて狭い範囲だと思われるので、このようなことをお互い真剣に話し合ったことはなかったように思われます。

 

 

 それでもその人がその楽器と縁を結んだそれらの動機を聞けば、また違った思いなども湧き出て来るのかも知れません。

 

 そもそも私がジャズを知り、興味を持ち、ついには上京してバンドに入るにまで至ったその動機というのは、高校1年の時の美術部の合宿でイヤホンから聞いた「モンク」という謎めいた名前と共に聞こえてきた、今までになかった奇妙な音楽から始まったことなのでした。

 

 ジャズという名前の音楽があること、ジャズにもモダンとモダンではないジャズがあること、そのモンクなるピアニストの音楽はモダンジャズに属すること等々、少しずつ後から分かってきたことなのですが、何せジャズなる音楽がラジオから聞けることはほとんどなく、それでも新聞のラジオ蘭を丁寧に見ていくと、1週間の内にいくらかの数の定期番組もあることがわかり(現在よりはその頃の方がNHKも民報もジャズを取り上げていたと思われます)、高級なオーディオ機器やLPレコードを買うことができるような家庭環境でもなかったので、45回転盤のレコード(ドーナツ盤)を探し求めたりして、徐々にモンク以外の演奏者を知っていったのでした。

 

 そのうち自分でも楽器の演奏がしたいと思うようになってきて、その頃はテナーサックスに魅かれていたのですが、調べてみるとこの楽器、テナーに限らずアルトサックスも値段が高いということがわかり、我が家の家計ではどうやっても買ってもらえそうにないので、値段の安いトランペットを親にねだって無理に買ったもらったのでした。

 

 ですので、たまたまマイルスの「ラウンドミッドナイト」を聞いて文字通りに全身痺れたその体験から、トランペットを本当にやりたいと思うようになったのは事実ですが、最初はサックスという楽器に魅かれてもその値段が高いという経済的理由から諦めたわけですから、トランペットに自分が選ばれたということは言えないように思われるのです、

 

 高校に吹奏楽部とかのクラブがなかったということが、結果としてよかったのか悪かったのか、それは今になってみてもよくわかりません。

 

 その当時に吹奏楽部があって、そこでトランペットを吹いていたら自分の限界がよく見えて、ジャズミュージシャンになろうなどとは思えなかったのかも知れないし、逆にもっとやりたいと思ったのかも知れないし、それはそれでどうなったのかは全く見えないことだからです。

 

 とにかく値段の高いサックスを諦めてトランペットを選んだということがあるので、その限りではトランペットが私を選んだとは言えないでしょうね。・・・まっ、こじつければある意味、選ばれたのかもしれなせんが・・。

 

 

 バンドにいて仲間たちとそのような、どうして今の楽器をやるようになったのかなどと話し合ったというような記憶がないので、あるいは酒の席かなんかではそういう話も出たのかもしれませんが、深く心には残ってないので、きっと真剣にそういう話し合いをしたことがなかったのでしょう。

 

 

 オーケストラなんかでは、いかにも楽器の方が人を選んだとしか思えないようなエピソードがたくさんあるようなのですが、私が約15年バンドマンとして仕事をしていた限りでは、どうもそのような典型的な、いかにも楽器の方からその人がその楽器をやるように選ばれたのだと納得できる、そういう明らかな事例には出会えなかったように思われます。

 

 ただドラムスの人、太鼓の人を思い出すと何か面倒見の良かった人の割合が高かったような、意地悪い言い方をすると少しお調子者というか、いいかげんなところが目に付くというタイプの人が印象に残っているのは事実ですね。

 

 そのことについては又書いてみたいと思います。