C調(しーちょう)なスーさん

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Keith Jarrett.

 

 

 

 

 

  ドラム(太鼓)はバンドのいわば扇の要(かなめ)的存在であって、その太鼓が打ち出すリズムにバンドのみんなが安心して乗っかり、メロディを奏でたり、アドリブを取ったりできているのだと思うのですが、そういうひたすらリズムを打ち出し続ける、まあ、言わば裏方の親分みたいな役割を毎日毎日果たしているせいなのかどうか、どうも太鼓・ドラム屋さんは面倒見の良い、親分肌、或いは頼りがいのある兄貴分的な性格の人が多かったように思われるのです。

 

 考えてみるまでも無くドラムというのは、あの色々な太鼓、シンバルを両手・両足をばらばらに使って、さまざまなリズムを正確に打ち出し続けなければならないのですから、ただ一つの太鼓を片手でトントンと叩くだけのことなら誰にでもすぐできますが、両足を使ってバスドラやスネアを一定の拍子に保ちながら、しかも両手でリズムを刻もうとすると、たちまちどちらかの足が止まってしまい、とても両足、両手を使って演奏するなんていうことの不可能性を悟ることになってしまうわけです。

 

 管楽器は初めからメロディ専門ですから何も言うことはないのですが、ピアノは一応クラシックとは違ってリズム隊の一員として組み込まれてはいても、それなりにみんなのバックでコードの進行を知らせる役目もあり、ソロもそれなりにあり、という役割分担がうまい具合にわかれているので、ただひたすら同じリズムを刻むという太鼓に比べると、リズムとメロディのそれぞれの色彩を受け持つことができる恵まれた立場だとも言えるのでしょうが、太鼓屋さんときたら一日の初めから終わりまで、ただひたすらみんなの後ろでリズムを刻んでいるだけなんですよね。

 

 いや、刻んでいるだけというのは、あくまで太鼓をやったことのない立場の一人としての発言にしかすぎないのですが、どうなんでしょう、実際にバンドにいたときに太鼓の人に向かって「一日中リズムばっかり刻んでいて飽きてこないのかい」なんて聞いたことはないので、果たして太鼓の人が自分のその位置をどう客観視していたのかは、本当のところはわからないままなんですが、しかし、飽きるということはやはり無いでしょうね。

 

 飽きたらもうそれでおしまいでしょうし、なんと言っても好きでドラムを選んだのですから。。。

 

 

 バンドの扇の要(かなめ)の位置にいるだけに、その太鼓がショータイムのときに進行を間違えたら、これはもう決定的なバンド全体の間違いになってしまい、ほんと、エライことになってしまうわけです。

 

 だいたい多いのはショーの時間制限からくる譜面の書き換えで、あちこちをカットしたり、特にダルセーニョの位置の変更とかが間違いやすいんですね。

 

 以前にも書いたように太鼓が間違うとショーの人達にとって重大な影響を与えるので、決して間違えてはならないのですが、そこは人間、ロボットではないのでやはり間違うことはあるわけで、そういうときにはバンマスが強引に引っ張っていって、なんとか全員最後には揃えて終わることになるわけです。

 

 

 ススキノで「スーさん」と呼ばれている名物的な太鼓屋さんがいました。

 

 調子がいいので、調子をひっくり返して「しーちょう=C調」なスーさんで通っていた人なのです。

 

 少し色の入ったサングラスをかけて、全体痩せて小柄な人だったのですが、その話し方、態度がいかにも憎めなく、みんなに愛されていたことは事実だったと思います。

 

 嘘を言うわけではありませんが、安請け合いというか、どうやってもその日にはできないだろうと思われることでも、ああいいよとかなんとか調子のよい返事をしてしまう、そんなところからC調(しーちょう)と言われるようになったのでしょう。

 

 私も同じバンドで仕事をやったことがあります。

 

 噂通りの調子の良い人という印象でしたが、別に意地悪するのでもなく、ススキノでは長くバンドマンをやっている大先輩でしたが、偉ぶることもなく、何でも素直に質問できる関係にすぐなれて、随分助かったことがあった筈なのですが、よく覚えていません。

 

 

 

 

 バンドを止めてから10年かそれ以上経ったときのこと、このスーさんから連絡が入り、昔の仲間たちと飲み会をやろうではないかとの誘いがあり、すぐには気乗りしなかったのでしたが、やはりスーさんの人徳のせいなのか、結局参加することになって随分久しぶりに何人かの昔のバンドマンと旧交を暖めたことがあります。

 

 このときもあのC調のスーさんだったからこその集まりだったと思うのですが、それもそれ限りでのこととなってしまいました。

 

 人それぞれの道でそれぞれが食べていかなければなりません。

 

 

 

 スーさん、今現在はどうしているのでしょうか。