指は回るけれど

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Thelonious Monk.

 

 

 

 

 

 ピアノの仕事にも馴れてきて、いくつかのバンドを経験していた頃に出会ったドラムスとベースの仲良しコンビがいました。

 

 そのバンドに入って少し馴染んできたころだと思うのですが、その仲良しコンビに誘われて焼き鳥屋かなんかで言われた言葉に、「あんたは確かに指は回る。それは認める。だけどあんたのピアノはどの曲も全く同じ感じで弾いていて、まるでリズムがなってない」と強い口調で言われたことがあります。

 

 キャバレーで演奏する曲は基本ダンス音楽です。

 

 マンボやサンバやルンバやたまにはワルツ、まれにタンゴ、そして4ビートの曲やはやり歌のアレンジもの、そのお店専属の歌手の歌伴などがおもな範囲となっているのですが、私のバック演奏、他の人が演奏しているときに付けるそのバック演奏が全く一律でリズムの差がないときつく言われたわけです。

 

 言われて見ると確かに私のバック演奏は一口に言ってしまうとアルペジオというか、コード(和音)を分解してソロをとっている人の後ろから飾りをつけていくというスタイルばかりで終わっていたようなのですね。

 

 もちろん譜面通りに弾かなくてはならないところではそのように弾きますし、左手は基本ベース奏者の進行の邪魔にならないように適当に弾くのですが、右手が今言ったようにアルペジオで飾り立ててしまう傾向が目立った、というかそういう自覚がなかったのでしょう。

 

 

 誰でもプライドだけは地面に溢れるほど持っているのが普通でしょうから、人から何か欠点を指摘されたり注意されたりすること自体をそのまま素直に喜べる、と言う人はそんなにはいないと思われるのですが、私もそういう一面は強く持っているので、言われた瞬間はむっとしたのですが、しかし、すぐその事実に思い到ることができたので、その場でもその指摘に対して礼を言い、次の日から改めて手元にある曲集のベースラインと右手のコードラインとをゆっくり確認しながらの弾く練習を始めました。

 

 翌日からすぐベース奏者のベースラインとピアノのベースラインを合わせることを意識し、右手のアルペジオも控えて地味なバック演奏に徹してソロを取る演奏者の後に付いていきました。

 

 1週間位たってからまた仲良しコンビニ誘われバンドマンがたむろする安い焼き鳥屋で「あんたのピアノのリズム随分よくなった。すごくやりやすい。」と言われ、ほっとし安心し、やっとリズム隊の一員として打ち解けることができました。

 

 

 

 指摘され注意されて初めて気づく事っていくつもあります。

 

 自分では何気なく弾いてしまっていることが傍から見ると(聞くと)目障り。耳障りになっているということがあって、でもそれが癖になってしまうと自分では自覚できないんですよね。

 

 

 もう一つ今思い浮かぶのはあの例の、何度考えても自分がどうしてこんなにいびられるのかわからなかったバンドで受けた指摘です。

 

 ピアノはラッパと比べものにならないほど音量が小さいので、多分そのことが原因になったと思われるのですが、ピアノでソロを取る時に出だしの音をそのまま一音で弾かずに、タン、タンと二度続けて打鍵してしまっていて、楽器の性質上一度打鍵してしまえばピアノの音はすぐ減衰して消えていくのですが、それを補おうという意識が働いていたのでしょう、どうしても一度の打鍵だけでは足りなくて二度続けて打鍵してしまったようなんですね。

 

 そのことをあのビブラホーン奏者が指摘してくれたのでした。

 

 まあ、皮肉めいた口調ではありましたが・・。

 

 しかしとにかくその耳障りな奏法の無自覚さに気づかされて、次からすぐに自覚してその悪い癖を直そうと思い、それからは完全ではないにせよ、直っていったのは事実ですので、彼には感謝しなければなりません。

 

 

 よく人から何も言われなくなったら終りだという言葉を聞くことがありますが、確かにそれは一面の真理だという体験を何度かしたおかげで、何とかバンドを続けられたのだと、今はそう素直に思えますね。