ドーナツ盤

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Dave Holland.

 

 

 

 

 

 ドーナツ盤:一分間45回転のレコードの俗称。ふつう、直径七インチ(約17.8cm)で、穴は直径3.8cmの大きさ。シングル盤。EP。

 

 

 

 これまでFace book や他のSNSを見て来て、40~50年前のバンドの生活を書いたものを見かけたことがなかったので、もう70歳を過ぎてしまった自分としては、なんとかその片鱗だけでも記録し、なるべく多くの方に読んでもらい、知ってもらいたいと心の片隅で思ってはいたのでしたが、具体的な手段が思い浮かばず(Face bookはそういう長文が主体になっていないので)ずっとそのままになっていて、今回Face bookで知り合った友達がこのHatena Blogでブログを開設したのを知って、真似をしてこうして書いている次第です。

 

 バンド生活といっても手元には何の資料もなく、ただひたすらおぼつかない記憶を頼りに書いているだけなので、もう止めてから35年以上経ってしまった今となっては、客観的なバンドの記録などではありえなく、結局自分史として語らざるをえないのは仕方ないとしても、それでもあまりに自分を語るのも何だかなあという気持ちもあり、今はなんとなく中途半端な心持ちなんですよね。

 

 

 

 

 ドーナツ盤には3~5分くらいしか録音できなかったようなので、流行歌といっていた日本の歌手が歌う曲は、大体3分少しを目途にして作曲、編曲されていたのだと思います。

 

 そういう時代だったのですけれど、実際ジャズもドーナツ盤かそれとも少し大きめの別の盤があったのか、はっきりとはわからないのですが、とにかくマイルスの「ラウンドミッドナイト」を私が持っていたのは事実なのです。

 

 他にもLPではなくてミンガスのあの有名な「直立猿人」もまたLPより小さな盤で録音されているのを聞いていました。

 

 やっぱり正規のドーナツ盤ではなくて、録音時間の長い小さ目のレコードがあったのでしょう。流行歌が並んでいる売り場とほとんど同じところに、そういうジャズのレコードも一緒に並んでいて、それなりの需要があったのか、なかったのか、とにかくドーナツ盤の世界は玉石混交、良い意味でのカオスであった一時期がありました。

 

 でも、すぐそういうカオス状態からジャズが抜け落ちて、いわば流行歌、ポップスの世界からはじき出されていってしまったようなんです。

 

 それとも自らそういう道を選んだのか。

 

 

 

 

 

 

 高校一年の夏休みに始めてジャズに接して段々と引き込まれていって、そうなるとジャズこそ最高の音楽、あとはくだらないというような選別意識、まっ、一種のエリート意識が芽生えてきてしまったようで、高二年のときにはあのビートルズが来日して一大フィーバーを巻き起こしても、なんだビートルズなんて大したことは無いと根拠もなく見下して、ジャズこそ全てという、何というかある種の宗教の信仰のような、熱心な一信徒になっていったのは、よくあるジャズフアンの一つのパターンと見てよいのでしょうか。

 

 

 ジャズを聞くのと、今現にここで演奏している自分の力量との余りの断絶、その埋めようのない無限の距離感に対して、その現実を受け入れるまでにはかなりの時間を要したと思います。

 

 

 

 東京でも札幌でも転々とバンドを変えたので、今はもうどこがどこやら判然としないのですが、東京のあるバンドで親しくなったドラムの人がいて(この頃には緑が丘に住んでました)彼のところと自分の部屋とを行き来していたのですが、私が大事に持っていたドーナツ盤を収容している手提げのボックス(20枚くらい入っていたでしょうか)を貸したことがあります。

 

 彼の所とは電車でそんなに遠くなかったはずで、一か月くらい貸してそれから返してもらうつもりだったのですが、彼が辞めたのか、私が辞めたのか、バンドが別々になってしまい、そうなると自然行き来もしなくなり、当時は携帯もスマホもなく、公衆電話や家電話が主流だったときですから、連絡することもなくなって、とうとう貸したまま彼は東京を去って行ったということを後から聞いたのです。

 

 非常に残念でしたし、がっかりもしました。

 

 そのボックスには高校時代に少ない小遣いから一枚、一枚と増やしていった貴重なドーナツ盤が、思い出と共に詰まっていたからです。

 

 しかしすでに彼はそれを持ち去り(多分、処理してしまったかどうかはわからないままですが)それからの住所も全くわかりません。

 

 

 マイルスの「ラウンドミッドナイト」もミンガスの「直立猿人」もこうして私の手元から消えていってしまったのでした。

 

 彼と巡りあったなら返してもらおうと思い続けて約半世紀も過ぎてしまいましたが、仕方ありません。今、彼はどうしているのか。はたしてあのドーナツ盤を持っているのか、会って聞いてみたいものです。