下を見て見えなければ・・・

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Roy Haynes.

 

 

 

 

  仕事としてキャバレーやクラブをたくさん巡ってきましたが、実は自分のお金を出してキャバレーで遊んだことは一度もないんです。

 

 あの頃のススキノの高級クラブには座るだけで〇万円とか言われている、とんでもない高級クラブもあったようなのですが、そういうところはさすがに全く縁がなくて、いったいどういうお店なのか、どういう美人の女の子がいるのか想像もできなくて、具体的に書くことはできないままなのですが、そこまではいかないクラブでもまずバンドマンの安月給では遊びにいくことはできなかったと思いますし、仕事として出入りしていれば自然と自分からお金を出して遊びに行こうとは思わなくなるようなんですね。

 

 誰でも仕事をしていればそれなりのストレスをため込むでしょうし、感情の揺れ動きも必ずありますから、仕事帰りにちょっと一杯という気分になることは、昼間の仕事であろうと夜の仕事であろうと共通の心の動きでしょうから、私も飲むに行かない訳ではないのですが、普通仕事を終えるとキャバレー自体が閉店してますし、もっと遅く営業しているクラブも今いったような理由で行くことも無く、大体はバンドマンが集まる安くて美味い焼き鳥屋とか居酒屋、たまには少ししゃれたお店でBGMのジャズを聞きながら話がはずむという位が関の山で、遊ぶことに関してはサラリーマンよりも奥手だったのかも知れません。

 

 

 男性が行くことはない、というか入店させてもらえない特殊な店にホストクラブがあります。

 

 けれど表玄関から入っても客席に座ること無く、楽屋かステージに直行する私たちバンドマンだけはその例外で、いつもの華やかなドレスや着物姿の社交さんではなく、きちっとしたスーツに身を包んだ若い、或いはそれ程は若くはないホストさん達が客としての女性をもてなすところを横目にダンス音楽を演奏するのですが、別に違和感などはなく、いつものように普通に演奏して帰ってくるわけです。

 

 キャバレーで一番の指名数を誇るトップの社交さんは、大体飛び切りの美人だということはほとんどなくて、顔の美しさはそれなりになければならないのですが、それよりも接待とその後のアフターサービスに努力する才能がものを言うわけで、えーあの人がと言う女性がトップのこともありますから、人は見かけにはよらないようなのです。

 

 でもホストクラブではやはりハンサム(今でいうイケメン)なホストがやはりもてるようで、ススキノに何店ホストクラブがあの頃あったのかもう今ではわからなくて、でも未だにずっと変わらない場所で営業しているお店もあり、それぞれの栄枯盛衰を乗り越えた店だけが生き残っていることはどの世界でも同じなのでしょうが、基本キャバレーやクラブよりもホストの方が顔の良し悪しが重要だったように私には見えました。

 

 あるホストクラブでたまたま一人のホストと一緒にトイレに並んだとき、彼が実におもしろい、初めて聞く一つの真実を私に話してくれたことがあります。

 

 彼が言うには立って小便をするときに自分のお〇〇チンが見えないときは、すでにもう肥満となっている証拠だと言うのです。

 

 そのころ20代の私には自分のお腹がせり出して自分の目から下を見たときに、自分のお腹が邪魔になって自分のお〇〇チンが見えなくなるなんていう事態が想像できなくて、そんなことが実際起きるのだろうかと心底疑問に思ったのでしたが、あにはからんや、歳を重ねるに連れ、本当に彼の言葉が真実だったとわかって来て、あのときの彼はすでにそういう体験をしたほどの、精神的には私よりずっと大人だったのだなあと思うのですね。

 

 ホストクラブではなく、女性が男性を接待するという普通のクラブではピアノトリオかせいぜいそれにギターかサックスが加わるカルテット(4人編成)での演奏が多くて、どちらかと言えば優しくおとなしい感じの曲が求められていて、キャバレーでの演奏とは異なる静かな緊張が私たちバンドマンにはあったように思われてきます。

 

 

 それもいつの間にかカラオケが浸透し支配するようになってきて、私たちバンドマンの仕事はどんどんなくなってきたのも、諸行無常の一つの姿形ではあったのでしょうが、やはり残念なことでした。